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「口福づくりのマエストロたちへ」
  第三話「白と黒のトリュフ」

大黒 俊樹  

トリュフも口にされたことのない方はいるまい。披露宴などで、司会が恭しく「世界三大珍味のトリュフが添えられております」なんてのたまわれると、どれ?って思いたくなる、小指頭大にもならないの「黒い野のダイア」だ。残念ながら「白い野のダイア」は、まず披露宴では出されない。

サンテミリオンはボルドーの中では流通の開拓が遅く、他のシャトーより地位を上げるに時間がかかったが、ワインの製造にかけては大先輩だった。ここのワインはトリュフに合い、急速に地位を上げた。その様を比喩し「シンデレラワイン」とも称された。

白トリュフは黒の10倍以上の値で取り引きされる。しかし、著名な顧客に愛されるホテルやレストランでは「お客様、この度はご用命にお応えできません」とは沽券にかけても言えないので、その年間運営予算には、あらかじめ「トリュフ予算」という勘定科目を設定し、それが食材に対する額かと思わせるような予算を計上する。英国の超有名ホテル・クラリッジスのその額は数十億円であったように記憶しており、その管理庫には、ごく限られた者しか、しかも何度もの関門を通過してしかたどり着けないようになっている。

黒トリュフは、最近、近所のやや高級スーパーで扱うようになった。クルミ大のもの3つで千円以下、これは破格の安さだと思う。このくらい価格のモノでも、その場で臭いをかいでもわかりにくいが、ラップに松葉とともにくるんで冷蔵庫にしまっておくと、扉を開けるたびに栗とキノコの良いところを掛け合わせたような、何とも言えない良い、しかし若干癖のある香りがする。「僕はここにいるよ」と奥の方にいても知らせてくれる。

面倒なのは表面の泥取り、2種類の未使用歯ブラシで洗うのだが、1つ洗うのにゆうに15分はかかる。洗った後は、軽く湿り気を取り、私流の「ナイトキャップの友」はこうだ。まず薄くスライスしたカマンベールでトリュフを丸ごと包む、これを、皿に並べ軽くラップ、両脇を大きく開けておく。そして電子レンジで軽めコースでチンするだけ。カマンベールとラップで軽く蒸しふかしになり、夜だというのに興奮してしまうほどのたまらない香りが広がる。これを、ワインか米焼酎で頂く。要は丸かじり、噛むとふかした栗のような、いやそれよりずっと上品な香りとかすかな甘みが舌で踊り、カマンベールの塩気と絶妙に合う。もちろん、これは私流の邪道である。

本来は、サラダ、パスタ、シーフード、ミート何でも合うのだが、白と黒、その日の香りの強さなどでパートナー(料理)が決まるので、店で心得のありそうなギャルソンにお勧めの組み合わせを訪ねるのが王道だ。基本的にはその料理の上に、「もうそこまでーっ!」と待ったをかけるまでスライスし振りかけてもらう。スライスが始まると何とも表現しがたい香りが放たれ、いつまでも待ったをかけられない気持ちもわかるが、その料理より値がはってしまうので注意が必要だ。

最近、白と黒の両方に絶妙なパートナーを紹介してくれた店を2つ挙げよう。南青山の骨董通りの六本木通り側からちょっと入ったところにあるイタリアン「コジマ」、元はこれまた有名なイタリアンの「アクアパッツア」があったところだ。西は新神戸駅坂下にある「ドンナロイヤ」ここにも素晴らしい思い出しかない。

「コジマ」さんは、何でもオーナーは耳鼻咽喉科医だそうで、いくつも分院を出すより、よほど愉しい人生を送られているに違いない。繊細な感性の持ち主でいろいろ建設的な提案をされるそうだ。繊細さとは知的な美徳である。

トリュフは香りが勝負であるが、その香り故に見つけられ食されてしまう運命だ。しかし人間の臭覚では探せないので、主に豚の助けに頼る。犬や蝿さえも動員されることもあるという。それはなぜかというと、土の中に自生していて、自ら地表に姿を現すことが希だからだ。同じく「香りの松茸、味しめじ」と称される松茸は赤松の根元に自生しているので、雨の条件が良かった赤松の森を覚えておいて探索すれば、その道の人なら腰を曲げて探すまでもなく、割と見つかるモノだそうだ。しかし、トリュフ探しの名豚はいても名人はいない。しかも鼻を土中に埋まらんばかりに押しつけて、微妙な香りをかぎ分ける様は、豚といえども頭が下がる。

先日、地方都市での講演会で申し上げ、期せず、妙に感動されたフレーズ「自費で治療を希望される患者様を捜すのは、松茸探しからトリュフ探しのような時代になった。自らが腰を折り、頭を下げる気持ちで接することが今や必須であるが、トリュフは松茸より得るものも多いのである」第三話はこの辺で、お粗末さまでした。

「口福づくりのマエストロたちへ」

 

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